僕は戦いの歌を、君に癒しの歌を
act.01 −ただの序曲に過ぎなかった−

これは、きっと、良くないことの、前兆だ。


突然だけど、あたしの部活はPC部である。
パソコン部。パーソナルコンピューター部。丁寧に言っても同じ部活名であることは変わりない。
なのに、なんで、何ゆえあたしは。

「機会いじりが出来るのでしょう?だったらテニス部にマネージャーとして来ない?」

城成湘南テニス部(恐らく男子)に誘われてるんでしょうかねぇ…
















城成湘南学園は忌々しいことに部活必須である。
免除されるのは生徒会とか、各委員会長とか。そういう特別なもののみ。
彼らでさえ申請しなければ部活免除はないらしい。この学校は理不尽だ。

さらに、この学校は体育系の部活が大半を占めている。体育系以外の部活といえば、美術部・PC部・文学部の3つのみ。
普通演劇部や生物部ぐらいあるだろう、と他校の皆様は思うだろう。
ところがどっこい、その類は部活ではなく『同好会』として存在しているのだ。
演劇同好会、生物探求同好会、実験同好会など。

しかしだ。同好会は同好会。部は部。

同好会には兼部感覚で入らねばならない。つまり、部活には入らなくてはいけない。
そして、運動系に力を入れているこの学園の文科系部活、と言うのが上記の3つしかないのである。

やっぱりこの学校理不尽だよ。小学校生活一度も部活に入らなかった運動好きじゃない人間に部活必須は。
文化祭来なかったらわからないじゃない、そんなこと。あたし来てないよ。

ともかく、そんな『小学校生活一度も部活に入らなかった運動好きじゃない人間』の一人であるあたし。
絵を描くか文を書くかPCでばれないように遊ぶかの内、どれが良いかと問われたら、当然最後を選ぶわけで。
結果、入ってみたら、ばれないように遊ぶ所か先生が黙認しちゃってたので遠慮なく遊ばせて貰ったりしていた部活時間。



















だったんだけど。




















さん、だったかしら。梶本君と同クラスの。」

顧問の華村先生に突然話しかけられた。
確か華村先生はテニス部と掛け持ち…というよりテニス部中心でお遊び感覚でPC部をやっている、と入部初期に言っていた。
部活以外では特に接点はない。
彼女が教えている教科の保健体育はあたしのクラスの担任である皐月原先生が教えてくださってるし。

かじもと…そんな名前の人も、いたかもしれない。
今はまだ4月半ば、まだクラスメイトの顔と名前が一致してない。
元から人と話したりするのは苦手で、人を覚えることが苦手な性分なのだ。

かじもと…あぁ、思い出した。
お前一日何本ムース使ってるんだよ、って突っ込みたくなるような髪型をしている、人。
学級委員長で、生徒会長でもある、将来有望な人。
生真面目そうな人。

「そうですけど。」

だから何、という気持ちを言外に込めて、華村先生を見た。
華村先生はと言うと、さっきから笑みっぱなし。いわゆるスマイル0円。
…こういう人、嫌いだ。

「入部して比較的すぐ思ったけれど…得意でしょう? PC。」
「特に…」

得意でもなく苦手でもなく。これは事実。
好きか嫌いか、と言われたらまぁ好きかな、と答えるだろうけど。

「そうなの? でもあなた、見る度思うのだけれど、他の人と比べるとずいぶんと詳しいようだけれど。」
「詳しい?」
「すべて把握してるでしょう? キーボード。」

これはつまり、Shift+Ctrl+Altが強制終了とか、そういうのをすべて覚えている、と言う意味だろう。
それが普通じゃないんですか? 華村センセ。

「覚えるのにどれくらい時間がかかったかしら?」
「さぁ…殆ど勘で覚えたものですから。」

ちょっと投げやりに答える。
視界の端に華村先生が少々目を見開いたのが見えた。それはあたしの態度についてですか、それとも答えですか。

「すごいわね…本当に?」

どうやら後者だったらしい。

「嘘ついてどうするんですか。」

すぐ切り替えしたら、「そうね」とだけ言って、華村先生は笑った。
何が楽しいのだろう。それとも、楽しくなくても、この人は笑えるのだろうか。
なんか、誰かさんを思い出す。

「そう。なら問題ないわ。」
「何が、ですか。」

くすくす、といかにもあたしの気に障る笑い方をしながら、先生は爆弾を投下した。



「機会いじりが出来るのでしょう?だったらテニス部にマネージャーとして来ない?」



ふざけんな、と言うのを寸前で止めたあたしってすごい。





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最後はギャグっぽいけどギャグじゃないです。超シリアス。予定では。
壊れた電話では話が出来ない。
伝えられない、伝えたくない。

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