僕は戦いの歌を、君に癒しの歌を
act.02 −きっかけ 時に大事なコト− 



「…断る理由は、特にないですね。」

暇つぶしにはなるかもな、とそう思った。
今年は高校生がどうとか進路がどうとか言われてるけど、特に気に留めてなかったし。
道の先を見てても足元の石に転ぶだけだよ、と昔友人が言った言葉の方がよっぽどいい。
先生の言い方がとっても癪に障ったのは事実だけれど、所詮は上下世界だし。

「そう? 嬉しいわ、さん。」
「機械いじり、って事はトレーニングマシンか何かですか?」
「察しが早いわね、その通りよ。」

そういって、華村先生はざっと機械の説明をしてくれたけれど、あたしにはさっぱりわからなかった。
説明より実物見せてください。欲を言えば見せてくれながら説明してください。そうすりゃわかるから。
百聞は一見にしかず、という言葉を初めて実感した。

「…で、いつからマネージャー、やってくださる?」

おや、先生は気遣いしてくださるようだ。
でもお生憎様、あたしは気遣いしてもらって喜ぶような可愛げのある奴じゃないんですよ、先生。

「今日…は無理ですね。何を準備するべきかわかってないし。明日でよろしいでしょうか? それとも何か、用事あります?」
「いえ、明日で大丈夫よ。よろしくね、ちゃん。」

何故呼称が変わったのか、よくわからなかったけれど。
何故笑みが深まったのか、よくわからなかったけれど。
とりあえず、警告は、発しておこう。

「…先生、あたしを選んで後悔しても、知りませんよ?」
「あらあら。」

相変わらず、くすくす笑いながら華村先生は答えた。








「私が何も調べずに、マネージャーを選ぶと思う?あ…」








華村先生の言葉は、途中で切られた。
多分あたしが思いっきり睨みつけてやったから。
その言葉は、禁句。言った人は死刑同然。あたしの中で、だけど。

「気に障ったのならごめんなさい、本当によろしくね、ちゃん。」

まるで何事もなかったかのように、華村先生は手をひらひらさせて去っていった。
ひらりと優雅に舞う白衣がやけに印象に残った。






















次の日は、とりあえず、新鮮だった。
皆からの視線浴びまくり。スターの気分味わいまくり。そんなもの味わいたくないけど。
とりあえず、えーと、梶本くん、と思しき人物がちょっとだけ目を見開いてた。
なんでお前がマネージャー? とでも考えたんだろう。答えは教えてやらないよ。

十分弱してから、あたしはトレーニングマシンのねじが緩んでたのを発見して、今直してる最中。
そしたらしゃがみ込んでるあたしの頭上に影が出来た。

「なぁ、お前PC部だろ?」
「…あんた誰。」

申し訳ない、少年その1。あたしは無愛想なのが素なのよ。
あからさまにひいた少年1に謝罪の言葉。当然心の中のみ。

「ぼ、ぼくは田中洋平。覚えてない?パ…」
「覚えてない。」
「…全部言ってないよ。」

がくり、と肩を落とす田中くんを見て、「最後まで言っても覚えてないもの」と答える。
しかし…パ? パパの上司の息子だーとかパンクしてる車乗ってたでしょとか?

……すべてありえない話でしょう。というより、中3の男でパパはどうよパパは。別にいいけど。

「同じPC部なんだけど…覚えてない?」

…納得。パソコンのパだったのか。

「全く。」

あ、今度はため息。表情豊かだね田中君。
でもPC部で自己紹介とかした覚えがないのに良く覚えてるね、田中君。
そう聞いたら「あー駄目駄目」と言われた。

「何が?」
「『田中君』って呼ぶと、もれなく二人が振り向きます。」
「何それ。」

田中君がそんなに沢山いただろうか。
それ以前に、あたしの質問に答える気がないね、君。

「じゃあ『テニス部の田中君』は?」
「それも駄目。」
「…『赤い髪の田中君』。」
「それならいいけど、呼びにくいと思うよ。」

ニッ、と笑って、彼はそこらへんにいる少年2,3,4のどれかに「浩平!」と呼びかけた。
ちなみに、来たのは少年5だった。

青い髪だが、ちょっと田中君と似ている。目とか、顔の輪郭とか。
身長もほぼ同じくらいだ。兄弟なのだろうか。
浩平君とやらはあたしを見ると、少しだけ顔をしかめた。…面識があっただろうか?

サン、これ、僕の双子の弟の浩平。」
「洋平、人をこれ呼ばわりかよ…」

ニアピン。あ、でも双子も兄弟だね。ドンピシャか。
田中君2号は汗を拭きながら、じろりと田中君1号を睨んでいる。仲良いんだね。

「だから、俺達は名前で呼んで、って事。Did you understand?」
「…あぁ、あたしが名前を呼ぶのは一部の人、って決めてるから無理。」
「「はぁ??」」

なにそれ、と言いたげに二人ともあたしを見る。
見られることにはさっきので慣れたよ、だからってずっと見てろとは言わないけど。

「一部って」
「どんな人?」
「…本当に仲がいいよね、1号2号。」

1号?! 2号?! という声を背景に、あたしは立ち上がり、わざとらしく笑ってやった。
可愛い、にはほど遠い、相手を挑発するような笑み。

「あたしに認められた人。」

それだけ残して、他のマシンを点検するためその場を去った。
絶妙な顔をしてたっていた1号と2号の表情がとっても面白いと思った。

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ちょっとだけシリアス脱線。伏線張りまくり。
洋平浩平が出てきたのは愛ゆえですね(何)
時間の差は大きい。直ぐに埋める事は出来ない。
もがいてる内にも、時間は無常に過ぎていく。

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