僕は戦いの歌を、君に癒しの歌を
act.03 -意識する前後の差- 



予想外にはまってしまった、機械いじり。
だって楽しいよこれ、ちょっと前まで動かなかった機械があたしがちょちょいのちょいやで、って触ると動き出すんだよ。

イッツベリーインタレスティング!

そこらへんにいた1号にそう言ったら「サンって変わってるね」と真顔で言われた。
1号、あんたもPC部だろうが。

「っていうか、サンって言い方止めてくれない?」
「何で?」
「『サン』という言葉の響き自体はいいけど、サンとわざとらしくサンを強調するのがイヤ。」

顔をしかめて言った私に、「やっぱ気づく?」とそりゃもう嬉しそうに1号は言った。
理由を聞いたら、「だってさ」と少し小声になって1号は答えてくれた。

「…入学当初のサンの噂とは違うなー、って。」

あぁ、警戒してたんですか。
なんだか妙に納得してしまって、作業を復活させることにした。

入学当初はクラスメイトに退かれていた。とっつきにくい人とでも思われてたんだろう。
興味のないことには一切触れない。話しかけられたら返すけど、あまり自分から話しかけなかった。





1号の言葉の続きを聞くまでは、手を休めたりはしなかったんだけど。





「だから、他人と一線は引いてるみたいだけど、全く違うんだよね、僕の思ってた人と。」
「へぇ。」
「だから、噂が本当なのか嘘なのか、ちょっと確かめたかったんだよね。つまり、演技させてもらった、と。」
「ふーん。」
「だから、わざと強調してただけ。」
「1号、出だしが一緒。」
「え? …あ、ホントだ。」

口元を押さえる1号は可愛かった。本人に言ったらどうなるんだろう。
そう思ったから、というより目には目を歯には歯を、という気持ちであたしは言わせて貰った。
そしたら「こいつー!」と何故か抱きしめられた。暑い。

「ていうかさー、さんは自分はどう呼ばれてもいいの?」
「はい?」

抱きしめられたままで問われても。
どういう意味? と表情で示したら「あ"ーだから!」と腕を離しながら1号は叫んだ。

「俺達のことは名前で呼ばないじゃん?」
「うん。1号と2号だね。」
「もっとマシなのにしてよ…ってとりあえずそれはおいといて。
じゃあ俺達がさんのことをどう呼んでもいいんだよな?」
「あ、うん。お気のままに。」

自分の名前だから自分の好きなように呼ばせたい、という考えの人もいるだろうが、あたしは逆だ。
相手が呼ぶのだから、相手が好きなように呼べばよい。























ただひとつある、禁忌に触れなければ。
























その代わりに相手の名前はあたしの好きなように呼ばせてもらってるけど。
1号2号が良い例だね。うん。


「よっしゃ、じゃでいいー?」
「お気のままに、って言ってるじゃない。」
「やったーー」
「あ、洋平ずりぃ!」

…少年6が出てきた。
と思ったら違った。さっき見た少年3だ。タレ目帽子君。

「はじめましてちゃん、俺若人弘。よっろしくぅ♪」
「よろしく。」

名前だけは聞いたことがあるような…あった。
聞いた、というより見た。校内新聞で。ちなみに新聞作成同好会の手によるものだ。
見出ししか見てないけど…『若人弘、絶好調! -月間校内人気ランキング4週連続1位-』というふざけた題だったら忘れないだろう。
こんな奴だったのか、わかとひろし。皆様には申し訳ないけど、あたしの友人の方がレベルが高い…というより、あたしの好み。

「若人君、出しゃばるなよなー。」
「ふふん、月間ランキング5位の洋平に言われてもねー」

なんと、1号も人気保持者だったのか。
そう尋ねると、若人くんとやらは意気揚々とあたしに上位十位の皆様を教えてくれた。
といっても、1位が自分で2位が部長、3,4がバスケ部の人で4位が2号、5位が1号で飛んで10位に何故か華村先生、という結果のみだったが。
そんな5位の1号は気分を害したのか、しかめっ面になった。

「そんなものどうでもいいよ。うざったいだけだし。」

口調から察するに、本当に嫌がってるらしい。まぁネタが嫌がることをするのはマスコミだからなぁ。
芸能人通でもなんでもないあたしの心の言葉など聞こえるはずがなく、「も気にしないよなー?」と1号は何故かあたしに振ってきた。
思ったことを告げるのは残酷かもしれない…というより救いがないな、と思ったので首を傾げるだけにした。我ながら気持ち悪い。

「うーわー。」
「何よ1号。」

1号?! という声が又も聞こえた。もちろん若人サマからだ。

「1号かぁ…1号…1号ねぇ…俺もそう呼ぼうかな。」
「やめてくれる? こっちはただでさえ不本意なんだから。」

わいのわいの、と横で騒ぐ二人を見て、不意に羨ましいと思った。
そして、思い出した。あたしの全ての罪を。




本当はこうやって、皆と話している資格さえないんだということを。




「…終了、っと。」
「え? もう?」
「大体がメンテナンスだから…ねぇ、部長何処にいるかわかる?」
「梶本?」
「あぁ、梶本君なら隣の部屋で華村先生となんか話してたけど…」
「ありがと。んじゃ、練習頑張って。」

にこっ、と笑ったあたしを見て、二人は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていた。
それをあたしは、つい数分前みたいに『可愛い』と思えなかった。
…違う。『可愛い』と思える余裕がなかっただけなんだ。自分のことで精一杯で。




あたしの場所は闇の中なのに。

自分が、皆みたいに光を浴びてる気になって。

……自分の、罪、を一時的に忘れてしまって。



馬鹿みたい、自惚れてた自分。

許されないんだよ、許されちゃいけないんだよ。

――――決して、自分を、許さない。






穢れた思考がばれないように、あたしは立ち上がってまっすぐに出口に向かった。
怪訝そうな二人の顔を見なかったフリをして。










全 て が 、 見 な か っ た こ と に 出 来 た ら い い の に 。









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自分の殻にこもることで自分を守る、攻撃を拒絶する。
…相手が差し伸べてくれた、温かい掌さえも。

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